磁性半導体EuTeとNiの複合薄膜作製は、高真空電子ビーム蒸着装置を用いて行なった。基板はBaF_2(111)壁開面を用い、EuTeを100Å-500Å成長させ、その上にNiを100Å程度成長させた試料を基板温度や膜厚による特性変化を調べ、より良質な試料を作製するため多数試作し、評価、測定を行なった。また、BaF_2に直接Niを蒸着した試料も比較のため同時に作製した。作製した試料はX線回折装置によりEuTeの配向性などを調べ、またX線光電子分光装置を用いて表面分析と深さ方向分析を行なった。その後、SQUID磁束計をもちいて磁気特性を測定し、磁気抵抗は12T超伝導マグネットを使用し、1.4Kまでの低温で行なった。本実験にあたり、データ収集、膜厚コントローラーの制御のためにパーソナルコンピュータを、また基板温度制御のために電力制御器を備品として購入した。 薄膜のNiの磁気モーメントは0磁場では異方性のため面内に向いているが、磁場をかけていくと面に垂直な磁化が出てくる。EuTeはT_N=9.6K以下では反強磁性であり、スピンは(111)面内で反平行にそろっている。したがって、Ni薄膜の磁気異方性がEuTeに引きずられる形で変化することが期待される。実験からはNiのみの試料とEuTeの上に積層したNiでは磁気的異方性が僅かに異なっていることが観測された。またT_N=9.6Kの僅かな変化も観測された。この結果は、NiとEuTeの層間にある程度の大きさの磁気的相互作用があることを示唆する。その場合、Ni薄膜中を流れる電流もEuTeの存在により磁場に影響されるのではないかと考えて磁気抵抗測定を行なったが、現在までのところ大きな磁気抵抗変化は見つかっていない。今後はさらに良質な試料の作製をめざしてMBEとRHEEDによる観察を導入予定である。
|