パルスマグネットによる高磁場を利用したX線磁気散乱・吸収実験を、方法論的に確立することを目的として、高エネルギー物理学研究所・AR放射光施設において、円偏向放射光X線を用いた磁気コンプトン散乱の実験を行った。試料としては、硬磁性材料として知られるSmCo_5のc軸配向試料を用いた。測定は、室温で、およそ12テスラ-のパルス磁場により試料の磁化を反転させ、その時の残留磁化成分を利用して行った。得られた実験データは、実験より得られたCo多結晶の磁気コンプトンプロファイルのデータと、Hartree-Fock計算により求められたSm 4f軌道のコンプトンプロファイルのデータを用いて最小自乗フィッティングすることでよく再現され、Coのスピン磁気モーメントとSmのスピン磁気モーメントとが、互いに逆向きであることを確認できた。(磁気コンプトン散乱はスピン磁気モーメントのみを反映し、軌道磁気モーメントは観測しない。)以上の実験により、電磁石等では磁化反転が困難であった硬磁性体試料についても、磁気散乱・吸収等の実験が可能になったといえる。 次に、Smの急冷試料を用いて、キュリー温度直下の150Kで低温での測定を行った。パルス磁場の影響を避けるため、試料ホルダーには、絶縁性でありながら熱伝導の良いサファイアを用いた。試料に用いた物質は、スピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントが競合しており、どちらの成分がマクロな磁化に大きく寄与しているかに興味が持たれている。測定された磁気コンプトンプロファイルの符号により、スピン磁気モーメントが、軌道磁気モーメントより大きいことが明らかになった。 今後、SPring-8の完成や、高エネ研・AR施設の改造により、さらに強い放射光X線が得られるようになれば、パルス磁場と同期した測定も、実質的に可能になるものと期待される。
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