研究概要 |
本年度は、パリティ対称性を持つ一次元周期ポテンシャル中で,ノイズを受ける散逸粒子の動力学を議論しました.ノイズには,その確率密度にパリティ対称性を持ちスペクトルが白色である一様乱数と,この乱数に同じ確率密度,スペクトルを持つカオスノイズ(テントマップカオス)を用いました.数値シミュレーションの結果,一様乱数下では,粒子は単なる拡散に従うものの,カオスノイズ下では,粒子はパリティ対称性を破り,一方向に動き続けることが示されました.カオスノイズ下では,ポテンシャル障壁の遷移確率も,乱数ノイズ下に比較して,オーダーが何桁も異なる程大きい値をとります.私は,この特異な現象の起こる原因が,テントマップカオスの不安定平衡点の分布がパリティ対称性を破っていることにあることを明らかとしました.また、周期ポテンシャルの振幅をゼロにすると、2種のノイズ下での粒子の運動にマクロな差異は見られなくなります。従って,カオスノイズの不安定平衡点の分布の対称性の破れは,多重安定系にあって初めて,粒子の動力学に影響を与えるものです。摂動時系列の言わば「動的対称性の破れ」が対称ポテンシャル中で粒子にマクロな流れを生じさせる事実は,反応速度論や核形成問題等に関連した確率過程論からの研究に於ても報告されておらず,この方面にも強いインパクトを与えるものと考えます。また、この成果は生体内に於けるアクチン=ミオシン系のエネルギー変換問題(化学エネルギーから力学的エネルギーへ)との関連からも注目されるものとなっています。
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