研究概要 |
強結合領域において電子の自己エネルギーΣを解析的に正しく計算する方法の一つとして,電子相関が厳密に取り扱える原子極限,すなわち,バンド幅Wがゼロの極限を無摂動状態と見なし,電子のホッピングエネルギーを摂動として扱うことが考えられる.しかし,空間次元dが有限の場合,摂動次数の増加と共に電子の空間的な遍歴過程の数は急激に増加し,無限次までそれらを正しく取り込んだ実際の計算は,ほぼ不可能である.電子間の相互作用が局所的であるような電子系は,dが無限大の極限において,電子の遍歴性を表す動的有効場Aを導入することによって,有効不純物モデルにマップすることができる.これは,d=∞の電子系において電子のホッピングエネルギーに関する摂動展開を取り扱うには,有効不純物モデルにマップしておいてから,Aに関する摂動展開を考えればよい,ということを意味する.つまり,空間的な電子の遍歴過程をあらわに考慮する必要がなくなり,計算は著しく簡単化される.そこで本研究では,無限次元電子系において,グリーン関数法に基づいて,Wがゼロの極限からAに関する摂動展開によってΣを求める系統的な方法を開発した.最初の応用例として,この手法をハバ-ド・ホルスタイン(HH)モデルに適用した.HHモデルとは,電子間の短距離クーロン斥力相互作用に加えて,ω_0のエネルギーをもつ局在した光学フォノンに媒介された電子間引力相互作用も考慮する複雑なモデルであるが,ある相互作用の強さにおいて,電子相関の取り扱いが簡単化されるという利点がある.さて,このHHモデルにおいて,原子極限では,あるエネルギーω^^〜_lでΣが発散し,これはフォノンによる電子の「動的局在」であると解釈される.本研究で得られた摂動展開理論に基づく計算の結果,このΣの発散は,Wがω_0に比べて非常に狭いが有限の場合でも生じることが示された.さらにWを大きくしていったときに,ある有限なW_cでこの発散が消失することから,Wの変化による動的局在・非局在転移が予言された.
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