本研究の当初の目標のうち、ナイロン6-ヨウ素コンプレックスの電気伝導度の測定は(1)電極に白金板とカーボンペーストを用いることで達成された。その上で(2)白金電極による2端子法から伝導度の経時変化と接触のオーミック性が確認された。 当初の計画では白金以外の金属として金電極を使用する予定であったが、通電以前に金電極の表面が侵食されることが実験からわかり、このコンプレックスとの接触には白金が最適であった。これは電圧印加がなくてもコンプレックス中に金の粒子が拡散するためと考えられる。つまりナイロン6は高い吸湿性に代表されるように水や金属イオンの拡散が容易な素材であるが、ヨウ素のド-ピングによってイオンや分子よりも更に大きい粒径の金属粒子をも容易に(接触させるだけで)取り込むことができることを意味している。 また2端子法による直流抵抗率の測定から、コンプレックスの電気伝導は初期においてはイオン伝導が主流であることがわかった。比抵抗は10^2Ω・cmから10^4Ω・cmまで時間経過に比例して増加し、電極からのヨウ素(ガス)の昇華も見られた。個体であるにもかかわらずコンプレックス中では(陽・陰)イオンの移動が非常に容易であるとともに、イオン濃度の偏りが短時間ながらも電位差を生じさせることが判明した。金粒子の拡散とも考えるとこのコンプレックスはあたかも溶液に類似した構造をもつものと考えられる。今後の課題としてアモルファスと秩序構造を対比させつつ、秩序構造中のイオンの移動過程を明らかにする必要がある。そのために本年度は達成できなかったが二重配向コンプレックスの電気伝導度と小角散乱実験を今後行う予定である。 なお本年度で明らかになった結果は第45回高分子学会年会(′95年5月)で発表の予定である。
|