原子のレーザー冷却の技術が発展する中、原子光学の実現に向けて原子結像系の開発が急がれているが、いまだ実用化に到っていない。 我々は昨年夏世界に先駆けて原子線による像再生「原子線ホログラフィー」に成功したが、原子結像系を用いなかったため、いわばレンズを使ったカメラに対するピンホールカメラのようなもので、その解像度は低く再生した像は1文字「F」という簡単なものであった。 そこで当初の計画とは多少異なるが、ホログラム自体に凸レンズの機能を組み込むことを行った。すなわちホログラムのパターンを計算する際に入射する原子波を球面波であり、またスクリーンが有限の距離にあることを考慮に入れ、別途の結像系を用いることなくても一点から出射した原子がスクリーン上でシャープな像を結ぶように設計したのである。このことにより長さ0.7mm、解像度50ミクロン程度の3文字の像再生に成功した。また近々20文字程度の像再生が可能となる予定である。 ところでこのようにして得られる再生像の解像度は、理論的な検討を行った結果ホログラムのパターンのピッチ程度よりは良くならないことが判った。これはこの方法では回折せずに透過してくる原子による0次のスポットが有限の大きさを持ちホログラムをスクリーンに近づけることを妨げるために、開口指数NAを大きく取れないからである。折角原子は波として短い波長を持つのであるからこれは残念である。そこでこれを回避するためにホログラムと電場による結像系を併用する像再生の実験を計画している。
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