いままで、2自由度ハミルトン系において、量子力学的な固有関数の位相空間における分布関数(伏見表示)の形態が、対応する古典力学系の位相空間における不変多様体の形態といかに対応しているかを、実質的に有効な位相空間である当エネルギー面(3次元)で実際に可視化して、調査した研究はなかった。この研究では、Eckhardt系をモデルとして取り上げ、このような調査を行なった。 その結果、KAMトーラスが位相空間のほとんどの体積をしめているという意味で、系の古典動力学が規則的である場合には、対応する量子系の固有状態は、Einstein-Brillouin-Keller量子化で選択されたKANトーラスに局在していることが極めて明瞭に可視化された。 また、反対に、系の古典動力学がカオス的である場合には、対応する量子系の固有状態が、極めて複雑な干渉パターンをもつこと、位相空間の次元を変えることにより、干渉パターンの複雑さがかなり変化することが、明瞭な可視化により、確かめられた。 以上のように、位相空間における量子力学的分布関数の可視化とその古典力学的な対応物との比較を、まずは、量子力学的固有状態に関して行なってきたわけだが、最近になって、時間発展を行たっている量子力学的状態に対しても、同様の調査を始めている。 この場合のモデルとしては、Morse-LEPSポテンシャルを用いた共線的3分子反応を取り上げている。いままでのところ、このモデルでは、動力学がカオス的な場合でも、量子分布関数の時間発展が古典分布関数のそれと極めてよく一致し続けるような状態が見いだされている。どういう条件のもとで、それらに大きな差異が発生するのかが、現在調べられている。
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