研究概要 |
本研究の目的は蛋白質の内部運動がその機能に果たす本質的な役割に関する知見を得ることにある。具体的には、色素分子を含む蛋白質に対し、申請者が開発してきたサイト選択蛍光分光を行い、蛋白質の内部運動を反映する低振動数モード、活性中心である色素分子のサイトのエネルギー分布、色素分子と蛋白質の相互作用の強さなどを求め、色素-ポリマー系での結果と比較考察し、蛋白質の特異性の解明を試みる。今回、機能中心である、色素分子の違う二種類の置換(Zn,Mg)ミオグロビンとZn-プロトフォルフィリンをDMF,DMSO、グリセリン(体積比1:1:2)にいれた試料に対し、実験をおこなった。我々の研究から色素-ポリマー系では、WDOSの横軸をピーク波数の値で規格化すると、形状は殆ど一致することがわかっている。しかし、ミオグロビンに関してはだいたいの傾向は似ているものの、ピーク波数より高周波数領域に置いて急激な落ち込みをしめし、また、150cm^<-1>付近の振動モードの強度がつよく現われるのが特徴としてあげられる。150cm^<-1>付近の振動モードはZn-置換ミオグロビンでは146cm^<-1>に現われ、Mg-置換ミオグロビンでは160cm^<-1>に現われる。しかしながら、Zn-置換ミオグロビンの色素分子であるZn-プロトフォルフィリンをDMF,DMSO、グリセリン(体積比1:1:2)にいれた試料に対しては殆どその強度が弱くなり、見分けができなくなっている。これらの結果から、この振動モードはプロトフォルフィリン中の中心金属と蛋白質の内部運動との相互作用によるものと見られる。ミオグロビンは動物の筋肉中に含まれ、酸素の貯蔵および運搬の機能を果たす蛋白質である。実際、酸素を離したり、くっつけたりするのは中心金属であるFeであり、上記の振動モードはその機能と蛋白質の内部運動を結びつける重要なモードであることがわかる。今後、この振動モードをプローブとしてより筋肉や細胞等よりマクロな生体物質での研究を進める予定である。
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