現在我々の観測する宇宙は大域的にほぼ一様等方であり、この観測事実はもともと“非一様"だった我々の宇宙に一様化を促す何らかの物理的過程が働いた可能性を示唆するものである。また、我々の宇宙は局所的には非一様であり、様々なスケールの非一様性(星、銀河、銀河団、超銀河団)が実際に観測されている。どちらも非一様宇宙という点では同じであるが、前者と後者は、ニュートン重力的な取扱いができるかできないかという点で定性的に区別することができる。本研究の目的は、両者の中間領域に重点を置き、相対論的ヴィリアル平衡の成立条件という観点から非一様な宇宙の力学進化を理論的に調べることによって、その力学的進化についてより統一的な理解を深めるところにある。非一様宇宙の力学的進化と相対論的ヴィリアル平衡の関係は、相対論的非一様宇宙にニュートン的な描像を持ち込むための必要条件であると考えられる。ヴィリアル平衡は“近似的なtimelike Killingベクトルが存在すること"というのが最も直感的な定義であるが、“近似的な"timelike Killingベクトルの定義及び存在の定式化が問題である。この問題を解決するためには、時間座標をいかに選ぶかが重要であり、本年度は現在までに知られている中で最も有望なものの一つであるニュートン-ゲージに注目した。 具体的には、あからさまにtimelike Killing vectorが存在するPost-Newtonian近似が適用できるsystem、及び球対称一様ダストの重力崩壊を記述するOppenheimer-Snyder(OS)時空に対してニュートン-ゲージを適用した。結果として、ニュートン-ゲージは、OS時空において非常に優れた側面を持つことが明らかになった。OS時空はダストの存在しない真空領域では厳密な意味でtimelike Killing vectorが存在する。そしてニュートン-ゲージは、このtimelike Killing vectorを時間座標に選ぶのである。しかし、ダストが存在する非常に動的な領域(特に事象の地平線の内側)では、時間発展の方向が逆転するという事実も明らかになった。また、Post-Newtonian近似においては、systemを特徴付ける保存量と計量テンソルの関係からゲージ-モードと呼ばれる見かけの自由を押さえ込む性質が明らかにされた。以上の点からニュートン-ゲージはヴィリアル平衡を定義するうえで重要な役割を担うことが期待され、またこの結果に関する論文を現在執筆中である。
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