研究概要 |
南極で得られた広帯域地震波形データに基づき、主に昭和基地を中心とする東南極、リュツォ・ホルム湾地域の地殻深部構造をS波の解析から研究した。遠地地震のレシ-バ関数インバージョンにより深さ60kmまでのS波速度モデルを求め、方位による差から水平方向の不均質を考察した。内陸部ではモホ面及び地殻内境界が比較的明瞭なのに対し、湾内では地殻内速度が深さと共に漸次増加し、遷移的な地殻マントル境界をもつ。この地域では5億年前の広域変成作用が知られており、表層地質のグラニュライト相-角閃岩相の漸移と関連して、地殻内速度の水平方向の揺らぎが大きいと思われる。 また、昭和以外の東南極の広帯域地震観測点(Mawson基地、及びDumont d′Urville基地)のデータを解析し、各観測点直下のS波速度モデルを比較した。Mawson基地はエンダービ-ランドの大古代クラトンを取り囲む、レイナ-岩体に属している。ここでは9〜11億年前の変動が知られており、S波モデルに見られる上部地殻の安定した高速度領域が対応する。23km深付近にも速度不連続が認められ、モホ面が42km付近と地殻がやや厚い。Dumont d′Urville基地はウィルクスランドのアデリー海岸に位置し、15〜17億年前に広域変成作用を受けている。モホ面の深さ38km付近に見られ、昭和基地に近いが境界はよりシャープである。やはり上部地殻に高速度領域が見られ、18km深さにも速度不連続がある。 今後は別方位のデータを追加し、大陸縁辺部における内陸側と海洋側の構造差を系統的に考察する。また、南極大陸の他の広帯域地震観測点、特にIRISに属するSouth Pole,Vanda Sea,及びPalmerの各基地のデータを解析し、西南極や南極横断山脈の速度構造を東南極の結果と比較する。
|