魚竜の胎児から、幼体、亜成体、成体にかけての個体発生における、大きさと形の変化を数量的に解析した。大きさは、従来から数量解析が行われていたが、形を数量化することが本研究の目的であった。東北大学、北海道大学、神奈川県立生命の星・地球博物館の所蔵の魚竜標本を35mmスライドフィルムで撮影し、本補助金で購入したスライドスキャナーでデジタル画像として取り込み、現有コンピューターで画像処理、計測を行い、統計処理を行った。徳島県立博物館、林原自然科学博物館準備室の標本については、写真の提供を受け、写真をもとに解析を行った。このほかにも、画像取り込みをビデオで行ったり、ドロ-イングスレートを用いる方法を試みたが、現段階では、上述の方法が最適であるという結論に達した。 ステノプテリギウス、イクチオサウルス属をもとに得られた2属の相対成長(アロメトリー)データから、コンピューター上で、骨格各部の成長率、成長開始時期、成長停止時期の3変数を変化させることによって、可能な形と大きさの多様性をシミュレーションした。その結果、中性代のいろいろ時期に繁栄した代表的な魚竜10種の形態の多様性は、イクチオサウルスからステノプテリギウスへの相対成長の変数を変化させることによって、創り出せる可能性があることが明らかになった。魚竜の進化をヘテロクロニ-で説明できる可能性が明らかになったわけである。 本研究では、3次元(立体)の魚竜化石を、平面に投影することによって、2次元のデータとして扱ったが、3次元から2次元への変換の際の歪みが大きいことから、今後は3次元のままデータ処理を行えるような方法を、ハード、ソフトの両面から研究する必要がある。また、化石化の過程での変形による誤差が、解析の結果に及ぼす影響が大きいことから、変形した化石標本を復元するモデルが必要であることが指摘された。本研究における試行錯誤の結果、仮想の3次元フレームを定義し、それに化石を投影して近似するような方法を開発する必要があると考えられる。
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