研究概要 |
本年度の研究では、多数の非常に保存の良いマツ科針葉樹の球果化石標本を得、これらのうち特に系統学的に意味の大きい第三系中親統および白亜系の2種類を対象として研究・記載を行った。 第三紀層産の標本は、現生のマツ科、Pseudotsuga(トガサワラ)属に属する植物の球果であることが、ピ-ル法により得られた解剖学的な知見をとおして明らかになった。本標本は内部構造の保存された最古の標本てあり、第三紀をとおしても唯一の標本である。このことは、トガサワラ属が中新世にはすでに成立していたことを、外部形態のみならず解剖学的なレベルでも確認出来たことを意味する。 標本産地は現在のトガサワラ属の分布北限より北に位置している。トガサワラ属は東アジアと北米に隔離分布する分類群でありベーリング海峡を通しての移動路上とも考えられる。トガサワラ属は第三紀に成立した属であると考えられており、今回えられた成立初期のトガサワラ属の精密な研究は、今後トガサワラ属の起源地および分布の変遷を探る上で本標本は貴重なデータを提供したといえる。 白亜系より得られた標本は、マツ属に属する植物の球果であることが明らかになった。マツ属は15の亜節に細分されているが、本標本は、それらのうちPinus亜属Pinus節Sylvestres亜節に属する。従来、マツ属を構成する大きな2亜属Strobus, Pinusのうち、Strobusのほうが原始的であるといわれてきた。ところが近年、ヨーロッパ、北米の白亜系よりPinus節Sylvestres亜節に属する球果化石が相次いで発見され、Pinus節のほうが、より原始的なのではないが、との考えが現れてきた。本標本は、未解決であったアジアでの状況を示し、Pinus節の原始性を支持する画期的な証拠といえる。
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