ジュラ紀および三畳紀のチャート層を岐阜県各務原市木曽川河畔と同じく七宗町の飛騨川河畔の露頭で調査し、黒色炭質層とその上下の地層から計約60試料を連続採集した。そして、その主成分組成を蛍光X線分析装置を用いて、また全炭素、硫黄濃度を元素分析計を用いて分析した。さらにいくつかの試料については薄片を作成し、偏光顕微鏡を用いて観察した。その結果を列挙すると、 1)黒色炭質層には上下の地層から得られた試料より1桁以上多い炭素、硫黄が含まれている。 2)黒色炭質層とその上下の地層の間で、Al2O3/TiO2値に大きな違いは見られない。 3)黒色炭質層には上下の層よりも厚い頁岩層がしばしば挟まれている。 4)木曽川河畔の露頭では、黒色炭質層の上位に赤色チャートが連続的に産出するが、その境界層は特徴的な黄褐色を呈している。鏡下での観察ではこの層の中非常に微細な針鉄鋼が認められ、堆積面に平行でカルセドニー埋められた脈が観察される。 5)同じく木曽川河畔の露頭では、黒色炭質層の試料に比べると、赤色層の試料のMnO/TiO2値は有意に大きい。 黒色炭質層には有孔虫と思われる微化石が含まれる。それらは現在石英で置換されており、内部は黄鉄鉱で充填されている。 以上のことから、黒色炭質層が黄鉄鉱や有機物に富んだ堆積物の固化したものであること、黒色炭質層と上下の層準の試料では砕屑物組成に大きな変化がないこと、黒色炭質層から赤色層への移行は黄鉄鉱の酸化->針鉄鉱の生成という過程を含んでいること、等が分かる。すなわち、黒色炭質層は一連の珪質堆積物の堆積過程において特に還元的な堆積環境が出現した時期に相当することが示唆される。このような堆積環境の急激な変化がいったいどのような原因で起こったのかについてはこれら珪質岩の堆積場の推定とともに古海洋環境の変遷という視点からもさらに詳しく検討を続けている。
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