研究概要 |
熱容量測定に用いる断熱型ミクロカロリメーターの改良を行った。まず装置に内蔵されている抵抗温度計をIPTS-68温度目盛のものからITS-90温度目盛のものへと変更した。その際温度計を校正して温度目盛を380Kまで拡張し,高温まで熱容量測定を行えるようにした。また温度測定用の交流抵抗ブリッジおよび自動測定用のパーソナルコンピューターをより高性能のものに交換し,測定プログラムも新たに作成して測定の高精度化・効率化を促進した。従来よりもさらに微少試料の熱容量測定を可能にするため,内容積1.06cm^3,0.45cm^3,0.17cm^3の3種類の新しい試料セルを製作した。セルの熱容量測定を行ったところ,何れのセルも測定精度が0.1%以下という非常に高精度の結果が得られた。 この改良した装置を用いて蛋白質結晶の1つである斜方晶系インシュリン結晶の熱容量測定を7Kから300Kの温度範囲で行った。これまでに測定した正方晶系リゾチーム結晶と同じく,急冷試料において約150Kにガラス転移による熱容量のジャンプが観測された。また200K以上で過冷却した結晶水の結晶化による発熱が生じた。この温度付近で発熱がなくなるまでアニールして再び測定したところ,ガラス転移温度は変化しなかったものの,熱容量ジャンプは小さくなった。このことはこのガラス転移が結晶水に関連していることを示唆している。結晶水による融解エンタルピーの実測値から,インシュリン結晶中の結晶水にもすぐに結晶化する水とゆっくりと結晶化する水,および結晶化しない水の少なくとも3種類の水が存在することがわかった。以上のことからインシュリン結晶もガラス性結晶の範疇に属すると結論される。
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