試料回転下にある固体中の同種核2スピン系がn個のサイト間をジャンプしている場合に、NMRスペクトルがどのように変化するかを計算するために、数値積分法を用いてマスター方程式を積分する理論を完成させた。その理論に基づいてNMRスペクトルを計算するプログラムを作成し大型計算機上で実行させたが、スピン系が2サイト間ジャンプあるいは3サイト間ジャンプをしている場合までは実用的な計算時間に収めることができた。最初に、off magic angleで回転している^<13>C-^<13>C2スピン系が、その結合方向に垂直な軸の周りにジャンプ運動を行っている場合のNMRスペクトルを計算した。運動モデルはそのまま試料回転軸をmagic angleとし、rotational resonance条件のもとで現れる粉末パターンが運動速度とともにどのように変化するかも計算した。さらに^<13>C-^<13>C2スピン系の一方のスピンが正四面体の中心に位置し、もう一方が3つの頂点を飛び移っている場合の計算も行った。計算の結果、同種核2スピン系のNMRスペクトルは、系がどのような運動を行っているかをよく反映することがわかった。そしてこの系のNMRスペクトルを解析すれば固体状態の物質中に存在する分子運動のみならず、分子の配座変換を直接検出できることを示した。しかし、スピン系が4サイト以上のポテンシャル最小位置間をジャンプしている場合を計算しようとすると、本研究で用いた数値積分法では膨大な計算時間を必要とすることも判明した。
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