研究概要 |
本研究は、近年注目されている結晶相反応の動的過程について、特に反応部位周りの環境つまり反応場の形状が反応におよぼす影響を調べる事を目的とした。結晶相反応には反応速度が速かったり、反応の進行にしたがって結晶状態が悪くなるものもあるため、通常の4軸型のX線回折計では反応過程の分子構造を観測することが困難である。そこで、本研究では低分子結晶用に開発された、イメージングプレート・ワイセンベルグカメラを使い、数時間以内に全回折強度データを測定することにより、時分割結晶構造解析を行なった。シクロヘキサンを結晶溶媒として含むsyn-tricyclo〔4.2.0.0(2,5)〕octane誘導体結晶では、この分子はX線の照射により結晶相で四員開裂反応を起こして、わずか数時間で中央部に八員環をもつcis, cis-1,5-cyclooctadiene誘導体に変化することがわかっている。これまでの研究から、報告者はIPワイセンベルグカメラを使うことにより、四員開裂反応の過程を追跡することが可能であることを示してきた。 本研究では、さらに詳細に反応部位周辺の結晶構造を検討したところ反応により分子構造が大きく変化する方向に結晶溶媒(シクロヘキサン)が存在していることが分った。結晶溶媒であるシクロヘキサンは、かなり大きな熱振動をしており、これは結晶中でシクロヘキサン分子が動きやすいことを意味している。つまり、結晶中では分子は密にパッキングしてはいるが、反応する部位周辺は動きやすい結晶溶媒によってかこまれており、反応を可能にしていることを明かにした。 このように、本研究では結晶相反応においては反応部位周辺の反応場の構造や大きさが重要であることを明かにした。また、キラルなコバロキシム錯体の結晶相光ラセミ化反応についても、Pワイセンベルグカメラを利用した時分割測定を行い、反応部位の周辺の反応場と分子構造の変化を動的に解析し、反応の進行を調べた。このような測定によりこれまで直接には観測できなかった有機化学反応過程を動的に解析し、分子の反応メカニズムの解明に寄与することができると考えられる。
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