本研究はポリ酸イオン生成およびその結晶成長に与える対カチオンの影響を解明することを目的とし、主にその単結晶X線構造解析を通して対カチオンとポリ酸イオンとの相互作用を解明するものである。本年度の研究ではまず、ポリ酸イオンとして過酸化物配位子を持つポリタングステン酸およびモリブデン酸アニオン、対カチオンとしてテトラブチルアンモニウムカチオンを選び、それらの間の相互作用を単結晶X線構造解析により追従した。その結果、結晶中ではテトラブチルアンモニウムカチオンはカチオン同士でカラム構造を形成し、一方過酸化ポリ酸イオンもアニオン同士でカムラ構造を形成し、一見カチオン-アニオン相互作用は存在しないかのように見える。しかし、結晶中での水素結合の様式を詳細に検討した結果、テトラブチルアンモニウムカチオンの窒素原子とポリ酸の架橋酸素原子のとあいだに多くの水素結合が見られ、それがこの結晶中でのカラム構造を安定化させていることが明らかとなった。この結果は日本化学会欧文誌に投稿予定である。 次に対カチオンを3価の希土類カチオンにかえ、ポリ酸イオンとの相互作用を検討した。まず、水溶液系における3価のサマリウムイオンとモリブデン酸との複合体を単結晶X線構造解析した結果、モリブデン酸の8量体がサマリウムカチオンによって架橋され、一次元の無限鎖を形成していることが明らかとなった。この結果はActa Crystallographica誌に発表済みである。 さらに、有機溶媒系における3価のランタンとモリブデン酸との複合体の解析の結果、ランタン1原子あたりモリブデンの8量体が2つ会合したものと、逆にモリブデンの8量体1つに対しランタンが2原子会合した2種類の錯体が存在することが明らかとなった。この結果は本年8月に米国シアトルで開催される国際結晶学会において報告する予定である。
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