研究概要 |
近年,ピレン,ペリレンに代表される芳香族縮合多環化合物をヘテロ原子で修飾した様々な含ヘテロ原子π-電子ドナーが開発され,優れたドナー性を持つものが数多く見出されている。より複雑に修飾された化合物がより良好なドナー性を示すものであっても,その構造の複雑さから単結晶のラジカルカチオン塩や電荷移動錯体に導くことが困難になり,その固体構造における詳細な検討ができない場合が多い。本研究では,7,10-ジチアフルオランテン及びさらなるヘテロ原子修飾を行った化合物を合成し,そのラジカルカチオン塩や電荷移動錯体の単結晶が容易に作成できることを利用して,得られた塩や錯体のX線結晶解析を行い,その固体構造におけるドナーとアクセプターとの相関関係を見出し,高電導性発現に主眼をおいたより多くの統一的知見を得ることを目的とする。 塩化テルル(IV)を用いたエチレンジチオアセタールの対応するエチレンジオ修飾縮合多環芳香族化合物への環拡大反応を利用して、アセナフテノン誘導体から誘導したアセナフテノンエチレンジチオアセタールを塩化テルル(IV)と反応させることにより,7,10-ジチアフルオランテン誘導体を合成した。 7,10-ジチアフルオランテン誘導体に対して、種々の入手可能な無機イオンのアクセプター(ClO_4-,BF_4-,PF_6-,I_3-,IBr_2-,ReO_4-,AuI_2-,NO_2-など)とラジカルカチオン塩を合成し、アニオンの形によるラジカルカチオン塩の電導性について比較検討した。また,様々な有機アクセプター(テトラシアノキノジメタン(TCNQ),テトラシアノエチレン(TCNE)など)とも電荷移動錯体を合成し,同様の検討を行う。得られたラジカルカチオン塩や電荷移動錯体の単結晶すべてについてX線結晶解析を行い,固体構造の違いについて詳細な比較検討を行った。また,得られた単結晶の各結晶軸における電導特性を測定し,結晶構造と電導性との相関関係を調べ,有機電導体として機能する新しい固体構造の構築を行った。
|