研究概要 |
遺伝子結合タンパク質の緻密なDNA認識は、静電的・疎水的相互作用、および水素結合などの多点相互作用を介して発揮されている。本研究では、各種作用因子を系統的に考慮したDNA認識分子を設計し、その構造-認識作用相関の評価を通じて個々の作用因子に基づくDNA認識について基礎的知見を得た。具体的には、DNA認識分子として水素結合形成能を有するアデニンをRu(bpy)_3^<2+>(2,2´-bipyridine,bpy)やRu(phen)_3^<2+>(1,10-phenanthroline,phen)のキラルなルテニウム錯体に取り入れたRu(bpy)(pade)^+やRu(phen)_2(pade)^+(8-(2´-pyridyl)adenine,pade)を合成し、そのDNA認識作用の分光学的評価から“キラリティー"や“水素結合"を主体としたDNAの高次構造認識について検討した。 DNA存在した測定したRu(bpy)_2(pade)^+やRu(phen)_2(pade)^+の吸収スペクトルには、インターカレーションに特徴的なスペクトル変化は認められなかった。しかし、発光スペクトルでは、5〜15%の強度の増加が見い出されるとともに発光偏光が観測された。さらに、平衡透析後測定したCDスペクトルから、Ru(phen)_2(pade)^+ではRu(phen)_3^<2+>と同様に二種存在する異性体(Δ,Λ)のうちΔ体が優先的にB型DNAと結合することが見い出された。これは、錯体がリガンドのアデニン部位と核酸塩基との間に水素結合を形成させた状態でDNAのメジャーグローブに結合した際、残る二つのリガンド(phen)とDNAのリン酸鎖との相互作用の違いによってΔ体が優先的に結合したと考えられ、水素結合やキラリティーのマッチングがDNAの微細構造認識に重要な役割を果たしていることがわかった。しかし、DNAに対する結合定数(K)はRu(phen)_3^<2+>(K=3000)やRu(bpy)_3^<2+>(K=270)に比べ、半分の正電荷しか保持していないRu(phen)(pade)^+(K=920)やRu(bpy)_2(pade)^+(k=30)では大へん小さく、ポリアニオンであるDNAとの結合に静電的相互作用が必要なことが確認された。
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