研究概要 |
(E)-アルキル-2-ブテン-1,4-ジオールのジアセタート1について,一方のアセチル基のみを位置選択的に加水分解できれば,生成するモノアセタートは水酸基,アセチル基という異なった反応性の完能基を有するアリルアルコール誘導体として優れた有機合成中間体になるものと期待される。しかし,そのような位置選択的な加水分解は通常の化学試薬では不可能である。酵素反応,特にリパーゼの非常に精密な分子認識能力を活かして,ジアセタート1の一方のみのアセチル基を選択的に加水分解することを検討した結果,リパーゼAL(Achromobacter sp.)により,ジアセタートの1位を選択的に加水分解し,目的とするモノアセタートを得ることに成功した。 (E)-2-メチル-2-ブテン-1,4-ジオールのジアセタートをモデル基質に選び,pH7.2リン酸緩衝液中,35℃で市販28種のリパーゼを作用させて,加水分解の位置選択性を調べた。あらかじめ標品を調製し,t-ブチルジメチルシリルエーテルとすることで,モノアセタートの位置異性体がキャピラリーガスクロマトグラフィーで容易に判定できることを確認した。各種酵素で加水分解して得られたモノアセタートをシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで単離し,シリルエーテルに導きカピラリーガスクロでその位置異性体比を決定した。リパーゼALを用いると1.5時間の反応時間で,モノアセタートの化学収率50%,(E)-4-ヒドロキシ-2-ブテニル=アセタートと,(E)-1-ヒドロキシ-4-ブテニル=アセタートの比が88:12を示すことがわかった。この選択性は,反応温度を0℃にするとさらに上がり,反応速度は低下したものの,選択比96:4(収率61%)まで向上させることが出来た。さらに,2位の置換基をエチル,ブチル,ヘプチルと変化させると,1位だけを100%の選択性で加水分解することに成功し,収率も85%まで向上することが出来た。特に(E)-2-エチル-2-ブテン-1,4-ジオールのジアセタートでは,わずか1時間の反応で目的のモノアセタートを100%の位置選択性で得ることが出来た。このような超位置選択的な加水分解は,化学試薬では到底不可能であり,操作も簡便で,酵素反応ならではのものである。本手法は有機合成上有用なものになるものと思われる。
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