熱帯域から温帯域にかけてひろく分布しているアカメガシワ属の展葉のフェノロジーと、花外蜜腺によるアリを用いた被食防衛について研究を行った。アカメガシワには葉の基部と葉縁に役割の異なる2種類の花外蜜腺が存在した。葉の基部の蜜腺は大きくアリを引き付け、葉縁の蜜腺は小さいが数が多いのでアリは葉の上をくまなく動き回る。アリがくまなく歩き回ると植物者に出会う確率が高くなり被食率を下げる効果がみられた。しかし、これらの蜜腺は展葉の初期にのみ存在し、また幼木には高い頻度でみられるが成木になると若い葉でさえ著しく少なかった。アカメガシワの花外蜜腺にひきつけられたクロヤマアリやクロオオアリといった大型アリは、鱗翅目の幼虫を引きずり降ろすなど植食者の除去に大きな影響を与えていることが確認できた。引き付けられた大型アリの数と被食防衛の効果には相関がみられたが、アカメガシワの生えている場所によって訪れる大型アリの種や個体数に差があり、花外蜜腺の数と引き付けられた大型アリの数との関係については有意な相関がみられなかった。このことから葉への投資と防衛の効果が相関する化学防衛や物理防衛にくらべてアリによる防衛は、コストは低いが効果は環境によって大きく支配されることが示唆された。照葉樹林を構成する植物のうち、成熟した林分に生育する樹種は一斉に展葉し、化学防衛手段をもつが、アカメガシワのような攪乱をうけた場所に生育する樹種は長期にわたって順次に展葉していき、展葉の初期に限りアリを用いた間接防衛をおこなう。この生息場所-展葉様式-防衛様式のシンドロームをコスト/ベネフィットの関係で説明する原理を考案中である。
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