ムネボソアリ属の数種についてコロニーの社会構造と女王間行動を調査した。北海道産のタカネムネボソアリでは、多女王コロニーが約40%をしめていた。多女王コロニーはいずれも主な産卵個体がただ1個体である機能的単女王制であった。女王間の行動を6コロニーで合計約260時間観察したところ、3コロニーで頻繁な攻撃的行動が観察された。そのうち2コロニーでは直線的な順位関係が認められ、第1位の個体だけが産卵していた。攻撃行動がまったく観察されなかった3コロニーのうち、2コロニーは受精個体が1個体だけで、その個体が産卵しており、未受精女王は全く産卵せず働きアリのような行動をしめした。残りの1コロニーでは女王間で攻撃行動は見られなかったが、働きアリが卵巣の発達した女王を追い出し、その後別の女王が産卵を開始した。いずれのコロニーでも働きアリと主産卵者以外の女王が低い頻度で産卵したが、そのほとんどは主産卵者である女王や働きアリによって食卵された。女王間の血縁関係はまだ推定していないが、ヨーロッパにおける同種の研究から、母娘、姉妹などの血縁集団であることは確実である。北海道ではどの個体群でも機能的単女王制で、機能的多女王制コロニーはいまだに発見されていない(調査コロニー数300以上)。これらの事実と観察結果を考え合わせると、コロニー内の産卵者個体数は女王間の血縁関係や生態的条件に影響されず、常に機能的単女王制であるが、攻撃行動の頻度や強度が血縁関係などに影響されている可能性が高い。本種の研究結果については現在ドイツ行動学会誌Ethologyに投稿中である。ハヤシムネボソアリでは約40%が多女王コロニーで、すべてが機能的多女王制であった。本種ではエサ条件を操作し利用可能な資源量が女王間の繁殖をめぐる競争に及ぼす効果を調べたが、エサ量とは関係がなかった。
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