研究概要 |
小笠原諸島の父島においては、清瀬、奥村、二見港、屏風ケ浦、境浦、扇浦、宮ノ浜、釣浜、初寝浦、ジョン浜、ジョニ-浜、ブタ海岸南島、母島においては沖港、御幸之浜、万年青浜、南崎で、また南島、平島において、転石海岸において簡易水準器による海岸のプロファイル測定および、ライントランゼクトとコドラートによる定量調査をおこない、またそれぞれの調査地域の岩礁海岸のタイドプールを調査し、ムニンタテジマホンヤドカリPagurus insulae Asakuraの密度推定をおこなった。その結果本種は、父島の二見湾岸の屏風ケ浦、境浦、扇浦に多く、父島の他の地域、および母島、南島、平島では著しく少ないことがわかった。またタイドプールと転石海岸両方に産することがわかった。また繁殖期は冬と推定された。 また父島の境浦より本種を採集し、水槽内で反発示威行動、直接攻撃行動を観察した。その結果、雄は産卵期に成熟雌を、小鉗脚で持ち、大鉗脚でガードする行動がみられた。また他の雄が近づくと大鉗脚を相手にむかってのばす反発示威行動がみられ、さらに相手が近づいてくると大鉗脚を相手の体の下にこじれて、突き飛ばす攻撃行動がみられた。 以上の結果から、本種の生息地、生活史、行動パターンは日本の本州に多産するホンヤドカリPagurus filholiに酷似し、Fukuda(1993,1994,1995)の小笠原産貝類の研究において見い出された「小笠原固有種の母種は本州温帯域に産する」という説を改めて支持する結果となった。また本種は、伊豆-小笠原-マリアナ島弧の小笠原諸島のしかも父島周辺のみに産することが明らかになり、本種の稀少性が確認された。
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