冬コムギは低温馴化の過程で耐凍性が増大することに並行して細胞膜のタンパク質組成が変動する。そこで本研究では、耐凍性の増大と並行して増加する低分子の細胞膜タンパク質のひとつ(18kDa)に着目し、本タンパク質のcDNAクローニングを通じて細胞膜構造における生理的および機能的役割に関する基礎的知見を得ることを目的とした。そこで、まず最初にcDNAクローニングに必要な18-kDa細胞膜タンパク質のN末端ならびに部分的なアミノ酸配列を決定するとともに、目的タンパク質に対する特異抗体を調製することを試みた。 低温馴化した冬コムギ(Triticum aestivum L.cv.Norstar)苗条から細胞膜画分を調製して、18-kDa細胞膜タンパク質を単離するとともにN末端ならびにプロテアーゼ処理によって得られるペプチド断片のアミノ酸配列決定を試みた。しかし、HPLCによる精製において、目的タンパク質ならびにペプチド断片のカラムからの回収率が極端に低いこと等が原因で最終的な量的調製は非常に困難となり、当初の計画の遂行に支障をきたした。そのため、Norstar品種よりも生長量が大きく栽培し易い冬コムギの別品種(T.aestivum L.cv.Chihoku)に急遽材料を代えて耐凍性の検定や細胞膜タンパク質組成の解析をおこなった。その結果、本品種の耐凍性(LT_<50>)はNorstar品種(-18℃)よりやや低く(-15℃)、18-kDa細胞膜タンパク質に相当すると考えられるタンパク質に関しては、Norstar品種に比べて量的に低いながらも低温馴化によってその含量は増加することが判明した。そのため、本品種を用いて本研究計画の遂行が可能になるものと判断した。現在、当初の計画に基づいてcDNAクローニングをすすめるため、低温馴化した本品種から大量調製した細胞膜画分をもとにして、再度18-kDa細胞膜タンパク質の単離ならびに部分的アミノ酸配列の決定や特異抗体の調製などを試みている。
|