本研究の目的は、植物のソース器官からシンク器官への糖の効率的な輸送機構を、原形質膜H^+-ATPase(H^+ポンプ)のショ糖による阻害機構とフルクトースによって促進される膜ATPaseの実体を明らかにすることによって検討することである。 材料としてコムギを用い、そのソース器官である葉とシンク器官である根から原形質膜を単離し、in vitroにおいて、転流物質として知られているショ糖のH^+-ATPaseに対する影響を調べた。その結果、既に報告した原形質膜ATPaseの活性の低下(Kasai and Sawada 1994)に加え、膜小胞内へのH^+の輸送活性も高濃度のショ糖によって低下することが明らかとなった。このショ糖によるH^+-ATPaseの阻害の分子機構については、H^+-ATPaseの仮定的な制御領域と考えられているC末ペプタイドの除去処理の条件を現在検討中である。また、上記の実験と並行して行った根器官からの液胞膜を用いたin vitroの実験から、フルクトースによって促進されるATPase活性の一部は液胞膜に存在することが示唆された。このフルクトースによるATPase活性の促進は、割合としては小さいが、原形質膜を用いた場合には全く認められなかった。 現在、原形質膜のH^+-ATPase(H^+ポンプ)に及ぼすショ糖の影響については論文を準備中である。また、フルクトースによって促進されるATPaseについては、現在、液胞膜のH^+-ATPaseに焦点を当て、解析を行っている。
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