研究概要 |
感覚性臨界期(20〜75日令)のジュウシマツ幼鳥に定型的なモデル歌(同種雄の囀りまたは合成音)を繰り返し提示して、そのモデル歌を「鋳型」とした歌を完成させることを試み、高い確率で歌学習を成立させるための実験条件(提示音の特徴・提示時期・提示回数など)を検討した。また、モデル歌の人為的な提示がある場合とない場合で、囀りの発達過程・完成された歌の音声学的特徴・モデル歌(または父親の歌)との相同性などをソナグラム(声紋)により比較した。しかし、今年度はジュウシマツの繁殖があまりうまく行かず充分な例数をこなせなかったため、人工的なモデル歌学習を成立させる必要十分条件が決定できなかった。また、人工的なモデル歌を提示されたジュウシマツ幼鳥の完成された歌とモデル歌は、定性的には類似性を確認できたが、相同性の定量的比較には至らなかった。今後も、例数を増やして検討を続ける予定である。 「鋳型」をコードするニューロン(鋳型ニューロン)の組織化学的同定については、まず、ニワトリc-Fos蛋白に対する抗体(Dr.Sharp,U.K.より入手済み)をウズラヒナに適用して免疫組織化学的手法を確立した(Yazaki et al.1995)。その方法を用いて、ジュウシマツ成熟雌で歌をプレイバックした時に脳内でc-Fos(immediate early geneの一種)が発現するかどうかを検討した。その結果、ある脳部位では、異種(キンカチョウ)の歌では反応しないが、同種(ジュウシマツ)の歌に反応してc-Fosを発現することがわかった(1996年度に学会発表の予定)。おそらく、その脳部位のニューロンが歌の種特異的な音声学的特徴を抽出する神経機構に関わると考えられる。現在、雌の例数を追加するとともに、雄についても同様の実験を検討中である。
|