研究概要 |
雌性雌雄異株であるノマアザミC.chikushienseのメス株の維持機構の解明をめざして,本研究では以下のような調査観察がなされ,解析が進行中である. a)食害状況の把握:両性株とメス株のそれぞれで,昆虫による食害の程度を把握し,異性型間にどのような差があるかを明らかにするため,鹿児島県野間岳の自然集団の約300株の頭花を開花期結実期(9月下旬から12月下旬)に採集した.その結果,開花1週間前ほどの頭花に数多くのゾウムシ類の幼虫の生息が確認され,またそれら幼虫の食害によって頭花は致命的なダメ-ジを受けることを確認した. b)食害昆虫の解析:この研究以前のデータでは,メス株頭花にはあまり虫害がみられなかった.そこで今回の研究では,この虫害における性差が昆虫の産卵時の選択によるのか(両性株を選択的に産卵),昆虫成長時の死亡率の差による(メス株による幼虫の成長阻害)のか明らかにしようと試みた.しかし今回の本格的な調査では,虫害における明瞭な性差は検出されず,作業仮説自体の検証には至らなかった.またメス株の進化的維持機構において重要と予想していた両性株だけが備えている花粉を中心に採餌する昆虫類については,その可能性のある昆虫は採集したものの明瞭な花粉採餌を残念ながら確認できなかった. ノマアザミの両性株には強い自家不和合性が生じており,近交弱勢の不利さは両性株にはない.したがって現在のメス株の進化的維持機構は,雄性器官省略によって得られたコストを他の生態的特性へ配分することによって構築されている可能性が高い.したがってメス株の維持機構の解明のためには,今後は虫害における性差ばかりでなく,生活史全般にわたる生長解析などによって性差の検出を試みなければならないであろう.
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