研究概要 |
深海性オニハダカ属魚類の進化史再構成に必要な信頼度が高い系統樹を得るために,本属魚類13種ならびに外群3種のミトコンドリアDNAの12Sならびに16SrRNA遺伝子内の2つの領域をPCR法により増幅し,オートシークエンサーにより当該領域およそ860bpの塩基配列を決定した.これら配列のアライメントを行い,最大節約法ならびに最尤法により系統解析を行ったところ,同一のトポロジーの系統樹が1本得られた.今回得られた系統樹は従来本属魚類に対して主張されてきた“自然群"とはまったく一致しなかったが,分子データを用いることによってこの“自然群"の可能性は統計的に否定された. この分子系統樹を用いてさまざまな生物学的特性の最適化を行い,本属魚類の進化史の特性を明らかにした.その結果,オニハダカ属魚類は過去に比較的原始的な下部中層から上部ならびに中部中層へ生息層を拡大し,また赤道海域ではさらに深層への生息層の拡大を図ってきたことが明らかになった.この新たな生息層の獲得には初期に分化した3つの分岐群が別個に関与していた.また,このような生息層の拡大には必ず体の幼形化が伴っていた.幼形化は体構造の単純化をもたらすことから,オニハダカ属魚類は餌料環境の劣悪な深海にあってエネルギー消費を節約する一つの大きな手段を獲得したといえる.化石記録,地中海の地史,ならびに外温性生物の分子進化速度から判断すると,オニハダカ属魚類の放散はおよそ2000万年前には始まっていたと考えられる.
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