本研究では、水酸化チタンゲル溶液と硝酸鉛を出発原料とし、水酸化カリウムでpHを14付近に調整することで、チタン酸鉛単一単結晶微粒子の水熱合成に成功した。合成時の平均粒径はTEM観察より8.57nmと非常に小さく、これまで報告された中で最も小さい。確認のためXRD測定より結晶子径を見積もったところ、c軸方向に薄い平板状の粒子であること、またそのオーダーは10nm前後であることがわかった。この粒子の結晶構造をXRDや電子線回折を用いて評価したところ、10nm以下の粒径であるにも関わらず、正方晶(P4mm)に帰属できた。しかもそのc/a比は1.115と通常の理想的な単結晶チタン酸鉛の値1.065よりも大きい。これは初めて観察された現象である。 種々の温度で熱処理を行うことで粒径を徐々に増加させたところ、500℃までは粒径はほとんど変化しないものの形状が平板状から球状粒子へと変化していること、そして500℃以上では球状のまま粒径が単調に増大していることがTEM観察、XRD測定よりわかった。このときの結晶構造も正方晶であり、20nmまでは粒径の増加とともにそのc/a比は単調に減少するものの、20nm以上ではc/a比は再び増加する傾向を示し、50nm以上では1.065に漸近することがわかった。この現象もまた初めて観察される現象である。そこで、格子振動の状態を調べるため赤外反射スペクトルで400cm^<-1>に観察される酸素八面体変形モードの半価幅を調べたところ、15nmまではその半価幅はほぼ一定であり格子振動状態は変化しないのに対し、15nm以上では粒径の増加に伴い半価幅が急激に減少し、減衰定数が小さくなっていること、すなわち格子振動が安定になっていることがわかった。15nm以上での結果はlshikawaらの報告と矛盾せず、格子振動に基づく双極子協調モデルで説明することができる。しかしながら、15nm以下での現象については既存のモデルでは説明することはできなかった。 一般にイオン結晶においてその表面で表面張力により誘起される表面緩和現象は、面間隔が増大する方向へ変化することが知られている。チタン酸鉛もイオン性の大きな結晶であり、その効果はかならず存在する。合成時の粒子は平板状でc軸方向に薄くなっており、このため表面緩和によりc軸は膨張する。通常大きな粒子ではこの効果は相対的に小さいために現れてこないが、10nm以下では格子20個分の大きさしかないため、表面緩和の影響を無視できずにこのような結果が得られたと考えた。このような報告は粒子では存在しないものの数nmの強誘電体薄膜では基板の影響のために起こることがいくつか報告されている。以上の結果は1995年の日本セラミックス協会で発表した。現在投稿論文を準備中である。
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