超微細構造半導体素子の作成プロセスと関係して、水素など軽元素の振る舞いの研究がたいへん重要になってきている。そこで本研究では、STM-STS装置を主に用いて半導体表面の表面構造及び局所電子状態を調べることによって、半導体表面の吸着水素の振る舞いや水素終端面上に成長させた金属薄膜の成長様式に及ぼす水素の影響などを明らかにしてきた。以下に得られた知見や今後の予定を示す。 1.水素終端シリコン面上の銀薄膜形成に及ぼす水素の影響 本研究代表者は、シリコン表面に予め水素を飽和吸着させておくと、その上での金属(銀)薄膜の成長様式が清浄表面の場合と大きく異なり、エピタキシャル成長が著しく促進されることを以前に発見した(Surf.Sci.242(1991)151)。この現象に対しSTM-STS装置を用いて微視的観察をおこなった結果、シリコン清浄表面に水素を吸着させたときに生成されるシリコンハイドライドクラスタは、その上に銀を蒸着させた場合表面からほとんど脱離し、比較的小さなクラスタだけが銀クラスタ間に存在することがわかった。さらに表面から水素が熱脱離した際には銀クラスタ分解され、そのときにシリコンハイドライド中のシリコン原子を取り込んで2次元層(√3×√3構造)が形成されることを示す結果が得られた。 2.ガリウムリン表面に及ぼす水素の影響 シリコンなどと比べ、原子スケールでの研究が遅れている化合物半導体(ガリウムリン(GaP)など)に着目し、水素吸着過程やその上での金属薄膜成長過程を調べることを次の実験課題に設定した。そこで、まず最初にGaP(001)清浄表面の作成・表面構造解析を行った。今後は、GaP表面における水素吸着過程、さらに水素終端させた上での金属薄膜形成過程の観察を行う予定である。
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