研究概要 |
人間は少々異なった照明の下であっても、物体表面の元々の色(例えば、昼光の下での色)を知覚できる。この現象は色恒常性といわれる。本研究では現実世界で起きている色恒常性とは,どのようなものであるのか検討するために,眼球運動や眼の時間的な順応を考慮して、できるだけ現実の場面を想定した実験を行った。実験1では、眼球運動に伴った恒常的な色知覚の特性を探るために、跳躍眼球運動の前後で観察している光景の照明色を変化させた。その結果、かなり大きな照明色変化(CIELUV空間上の色差で10程度)が生じても、被験者は恒常的な色知覚を維持することが示された。また、照明色変化の知覚には、認識された照明光の色カテゴリーが関係していることが示唆された。実験2では照明光強度(照度)を時間的に変化させ、その変化を被験者が認識するかどうか調べた。観察刺激は多数の色からなる色票を使用した。その結果、時間的に急激なステップ状の照度変化は、わずかな照度差であっても被験者はその変化を知覚した。一方、連続的にゆっくり照度を変化させた場合は、被験者はかなり広範囲にわたる照度変化(例えば、800〜300ルクス)を明確には検出できないことが見出された。また、実験2においても、照明レベルの認識において、何らかのクラス化が行われていることが示唆された。本研究の結果は、色恒常性が、外界の物理的な照明光変化を直接的に補正して得られるものではなく、視覚系内部に形成されている視空間モデルの性質、及び、その更新と維持に関わる問題であることを示している。
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