研究概要 |
数値情報処理とは,従来の数値計算技術を主体とし,それを取り巻く種々の解析・吟味手法や,最近では精度保証技術などの手法も取り込んだ数値データの処理全体を指す.近年の計算機の能力向上により,このような数値情報処理の規律は非常に大きくなてきているが,そこでの数値計算の結果である膨大なデータから有用な情報を取り出すためには,データ自身の信頼性,精度というものに多くの注意を払い,それらを吟味するべきであるということの再認識が広まってきている.多種多様な数値情報処理の全体に対して統一的な手法を適用するための接近法である「自動微分・高速自動微分」,「区間演算」などが実用になりつつあるからである. 本研究の目的は,数値計算結果の精度保証の自動化の仕組みを発展させ,より広い枠組である数値情報処理の中に適切に融合することである.具体的には,個々のプログラムレベルの精度保証を基礎そして,より抽象度の高いレベル,たとえば,ベクトル,行列などの形態での精度保証の効率の良い実現方法を研究する.また,多様な「数のデータ構造」を用いる技術の実現法の高効率化を模索しつつ,数値計算用の「数」として,何を用い,どの精度保証の手法を用いるべきであるかというデータ構造選定の自動化も目指す. 以上のような目的の下で,次のような結果を得た.(1)試作中の精度保証の自動化のための処理系を用いた計算実験を行い,実際的な側面から,処理系の高効率化,改良を試みた.これは,数値情報処理の品質保証のための技術の根幹部分になる.その結果,常微分方程式の初期値問題の解の精度保証アルゴリズムを整理することができ,近似式の次数を一定にした場合には,最も狭い保証区間を与え得るアルゴリズムを得た.(2)並行して開発していた高速自動微分用プリプロセッサについて,国際会議で発表した. また,当初研究予定に組み入れていながら,課題として残ったものは,次の2点である.(1)数値情報処理を支援する一般的な枠組を考えると,その支援システムの機能および形態,すなわち,利用者との接点の実装も重要となる.ここでは,いわゆる「グラフィカルユーザインタフェース」も備えた使い勝手のよい品質保証の処理系を設計し,実験によりその妥当性を確認することを目指したが,それ以前の段階に留まってしまった.(2)処理系の汎用性・頑健性を高めるために,異なる様式の計算機上でシステムを試験することが必要であったが,そこまでに至らなかった. なお,計画どおりのワークステーションを購入し,数値実験を行ない,秋には研究成果に関して京都大学数理解析研究所における共同研究集会にて発表した.この発表に旅費を使用した.
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