研究概要 |
高強度鋼や表面硬化鋼などの鉄系高強度材料においては,Fish eyeと呼ばれる特有の破面様相を呈する疲労破壊を極高サイクル疲労域(繰返し数10^7回を越える高サイクル疲労域)で生ずるとともに明瞭な疲労限度が認められなくなる.Fish eye破壊は,介在物などの材料内部の微小欠陥を起点として疲労き裂が発生,破断に至る.そこで本研究では,焼入れ焼戻しを施したSCM435を供試材に回転曲げ疲れ試験を実施し,疲労試験を中断した試験片の詳細な断面観察を通じて,内部介在物からの疲労き裂発生寿命,伝ぱ特性について検討を加え,Fish eye破壊型の寿命評価,疲労限度について考察した.その結果,得られた結論を以下に要約する. (1)内部介在物周囲の剥離箇所から疲労き裂は10^4回以前の疲労過程初期に発生する. (2)観察し得た極微小な介在物周囲のき裂は,起点介在物の寸法や応力レベル,繰返し数によらず,介在物を中心としたほぼ同大の円形のき裂として存在し,焼戻し温度の異なる試験片毎に定まる限界停留き裂寸法で停留していた. (3)この停留状態から進展状態への遷移応力レベル,すなわち,基地組織の有する内部破壊型の「真の疲労限度」は,従来報告されている表面破壊型の「真の疲労限度」より明らかに低い. (4)試みに大気の供給を遮断した試験片の疲労試験を実施した結果,通常は表面破壊が生じなくなる「表面破壊型の疲労限度」以下の応力レベルでも表面破壊を生じ,「表面破壊型の疲労限度」が20%低下した.この結果は,内部破壊型の疲労限度の低下要因として大気の有無が関与していることを意味している.
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