分子動力学法用いダイヤモンドを圧子によるシリコンのインデンテーション、及び、ダイヤモンドを工具としたシリコンの切削のシミュレーションを行なった。インデンテーションのシミュレーションは(111)面を表面とするビッカース型ダイヤモンド圧子を(001)面を表面とする完全結晶のシリコンに100m/sの速度で押し込んだ。一方切削のシミュレーションは、(111)面を表面とする鋭い先端を持ったダイヤモンド工具により、(111)面を表面とする完全結晶のシリコンを切削厚さ1nmで切削を行なった。工具速度は200m/sとした。また、Si-Si間、Si-C間、そして、C-C間の原子間ポテンシャルはTersoffのポテンシャルを使用した。 分子動力学法を用いて行なったナノスケールのインデンテーションおよび切削のシミュレーションの結果から、インデンテーション、切削のどちらも、クラックが発生せず、ナノスケールではシリコンは延性的に変形することがわかった。 インデンテーション時のシリコン結晶中の応力分布を見ると、圧子の表面から垂直に圧縮応力が分布し、引張応力はほとんど見られなかった。また、圧子下部にせん断応力の集中も見られなかった。このことからナノスケールでの応力分布は通常のマクロスケールのものとはかなり異なっていることがわかる。 以上のことから、ナノスケールでは脆性材料であるシリコンは延性的に変形し、ナノスケールの変形の機構はマクロスケールのそれとは異っていることがわかった。したがって脆性/延性遷移現象を解明するためにはメゾスケールの現象を解明する必要があると言える。
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