研究概要 |
凍結保存は生命の維持が第一義であるが,凍結・保存・解凍の各過程で組織を構成する細胞に生ずる種々の障害が,全体(マクロ)としての生死を最終的に決定している.細胞を基本単位とする考え方は,組織を物理・化学的な拘束により分断しているミクロ単位が細胞であり,その単位で生ずるミクロ挙動や状態が,さらに低い階層での生存活動に直接的・間接的に影響を及ぼすためである. 研究者はこれまで,凍結過程で生じるミクロ挙動と冷却操作との関係を,凍害保護物質の効果を含めて実験的,解析的に明らかにしてきた.しかし,凍結保存においては,解凍後の生存が最終的な条件である.本研究は,細胞ならびに細胞の集合体に対する解凍モデルの提示のもとで,シミュレーション計算を行い,以下の結論を得た. ・細胞は,凍結によって脱水するが,解凍初期にさらに脱水し最小体積となる.昇温が進と膨潤していくが,解凍終了後も体積は完全に回復しておらず,以降放置しておくと凍結前の体積まで徐々に回復する. ・解析結果と小麦プロトプラストを用いた解凍実験の結果との比較により,モデルの妥当性が検証された. ・昇温速度が早いと生物組織内部での細胞内外の浸透圧差が大きくなり,遅いと組織表面の浸透圧差が大きくなる.細胞内外の浸透圧差が大きいと細胞に障害が発生すると考えられており,解凍初期に急速解凍し,その後,緩速に解凍する2段解凍の有効性が浸透圧差の軽減の観点からも示唆される. 従来の凍結過程とここでの解凍過程についての速度論を連結することにより,生体細胞の生存とマクロな輸送現象とを関連づけるための基礎が確立された.
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