rocksalt構造を有するErPイオン結晶と、III-V族化合物半導体の1つでzincblende構造を有するInP共有結合結晶とからなるInP/ErP/InP複合構造の原子層制御スーパーヘテロピタキシャル成長を世界に先駆けて取り上げた。構造作製には多槽構造と基板回転機構を有する、現有の減圧縦型有機金属気相エピタキシャル(OMVPE)成長装置を用いた。Er原料としてEr(MeCp)_3(trismethylcyclopentadienylerbium)を採用した。この原料の融点は133℃と高く、室温では十分な蒸気圧が得られないため、室温より高い温度で使用する必要がある。そこで、OMVPE成長装置に120℃まで昇温可能なEr原料供給系を新たに増設した。引き続き、Er原料の特性を把握するために、各種成長条件のもとでInPへのEr均一ド-ピングを行った。SIMS測定より、Erをド-ピングした全てのInPにおいて、深さ方向に対して均一なEr濃度が得られた。また、成長層中Er濃度は成長温度には依存せず、Er原料シリンダーを通過する水素流量に対して比例した。表面モフォロジーに関しては、10^<19>cm^<-3>以下のEr濃度で鏡面が得られた。4.2KでのPL測定において、1.54μm領域にEr^<3+>のf殻内遷移に起因する鋭い発光線が多数観測された。Er濃度の変化により、PLスペクトルに変化が現れた。このことは、試料中に複数のEr発光中心が共存することを示唆している。PLスペクトルの形状と強度は成長温度に強く依存する。すなわち、成長温度550℃以下では強い発光を示し、580℃以上では発光強度が急激に減少した。蛍光EXAFS測定の結果、成長温度550℃以下では添加されたErがInP中のInサイトを置換して存在するのに対し、成長温度580℃以上ではrocksalt構造を有するErPが形成されることが明らかになった。InP/ErP/InP構造のスーパーヘテロエピタキシャル成長は成長温度530℃においてTPB雰囲気中でIn原料とEr原料を切り換えることにより行った。得られた試料のRBS測定より、添加されたEr原子は測定分解能の60A以内に存在することがわかった。ランダムスペクトルから算出されたErシート密度はEr供給時間に比例した。低温でのPLスペクトル形状は均一にErをド-ピングされた試料と異なった。このことはEr原子周辺の原子配置が両者で全く異なることを意味している。Er原料供給時間が増加するにしたがい、PL積分強度が単調に減少した。試料中のヘテロ界面の状態をX線CTR散乱測定により原子層レベルで評価した。得られたCTRスペクトルにおいて、Er原料供給時間の増加に伴い、スペクトルの減衰が激しくなった。これは表面と界面の結晶性の劣化に起因している。供給時間が5分の試料で得られる、変調の明瞭なCTRスペクトルを解析することにより、試料中のEr原子がErP構造を形成して、半値幅5原子層(15A)の領域に存在することが明らかになった。
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