本研究では、集束イオンビームを用いた極微領域イオン注入方による微細加工技術により、新たなデバイス構築のための研究を行っている。これまでの研究では、n型シリコン半導体中に、Gaイオン注入により一次元細線状にp型電気伝導領域を形成してきた。このときのイオンビーム径は、0.1μmであり、イオン注入後の熱処理は600〜700℃で行っている。こうして作製されたp型電気伝導領域は、不純物濃度の違いにより金属的伝導或いホッピング伝導特性を示していた。本研究ではホッピング伝導に着目し、多重トンネル接合として捉えることにより、クーロンブロッケード現象を利用したデバイスへの適用について検討を行った。 本研究で作製した試料では、集束イオンビーム装置の描画特性を生かし、2つの金属的伝導を示す細線を2μmまで近づけて直列に描画し電極として利用する。全体の電気的特性は、電極間でのホッピング伝導が支配する。電極として機能させるため細線領域は、6.6x10^<10>cm^<-1>の高濃度注入を行い、600℃での熱処理を行った。細線の間には、イオンビームの裾からの僅かの不純物注入等により不純物が導入されていると考えられる。この領域を電気的に制御するため、更にシリコン表面に化学的堆積方により膜厚約5000Aの酸化膜を形成後、アルミニウムによるゲート電極を形成し三端子構造とした。この試料に対し、温度4.2〜30Kの温度範囲で電極間の電気伝導率を測定したところ、ゲート電極の電圧制御により電気伝導率が1%程度揺らいでいることが分かった。実験よりゲートと局在準位との接合容量を見積もったところ7x10-18 Fとなり、形状から見積もられる容量と一致する。これは、クーロンブロッケード現象が直接現れたと考えられる。 現在、多重トンネル接合を電気的に制御することで、クーロンブロッケード現象を利用しメモリーセルの動作が可能であるという報告がなされている。本研究で得られた結果は、多重トンネル接合部の電気的制御が可能であることを示しており、本極微イオン注入法を、クーロンブロッケード現象を利用したデバイスへ適用することが可能であることを明らかにしている。
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