本研究の目標は、THz帯の高周波領域でのキャリアの散乱ノイズをLOフォノン散乱を利用して抑制することにある。THz帯のノイズ特性を議論するためにはこの領域のノイズの大きな要因であるショットノイズとの区別が必要である。実験は、ショットキーダイオードを作製し、そのノイズの周波数特性をヘテロダイン検波後にスペクトルアナライザーで測定した。今年度内に明らかになったことは、ノイズがショットキー(金属・半導体)界面の欠陥や不純物に大きく依存し、界面の状態の制御が大きな問題だということである。現状ではTHz帯のノイズ特性をショットノイズとそれ以外の原因によるノイズとに区別することは出来ていない。界面の欠陥に起因したと考えられる数KHzからの熱雑音(ジョンソンノイズ)が非常に大きく、この影響で全周波数領域でノイズレベルが上がり、ショットノイズだけを議論出来ないのが現状である。また、ノイズレベルの増大は受信感度を低下させるので、ダイオードの出力も下がり、THz帯のノイズの評価の妨げになっている。現在までにTHz帯の半導体デバイスとしては、GaAsショットキーダイオードが有力視されているが、GaAs・金属の界面の制御が困難であり、再現性良く良好なデバイスを作製する手段が確立されていない。本研究はII-VI族半導体のLOフォノンカップリングの大きいことを利用し、GaAsでは起こりにくい、キャリアのLOフォノン散乱によるTHz帯のノイズ特性制御をめざしたが、GaAsと同様に上記の界面制御の問題に直面しており、II-VI族半導体の特徴を生かせないのが現状である。界面制御の問題は、II-VI族半導体ではGaAsに比べて、なおさらよく解っておらず、今後の課題をなる。
|