2つの量子細線を結合させた系では、結合部分で電子が一方の量子細線から他方の量子細線に乗り移ることができる。この現象を利用すれば、新しいスイッチング素子や電子波の方向性結合器などが作製できることが予想されており、物理的にも工学的にも非常に興味深い系である。しかし、2つの量子細線を十分接近させて作製するのは非常に困難であり、作製技術から開発しなければならない。そこで本研究では、まず数値計算によって、従来の電子ビーム露光技術による微少ゲート電極を用いた場合ヘテロ界面の電子が感じるポテンシャルは非常に広がったものになってしまい結合量子細線を作製するのは困難であることを明らかにした。次に、分子線エピタキシ-(MBE)と集束イオンビーム(FIB)からなる真空一貫プロセスによって、結晶中に埋め込まれた電子波スイッチングデバイスを作製するために超高真空中での成長中断の効果について実験的、理論的な検討を加えた。その結果、超高真空中でも10^<12>cm^<-2>程度の界面準位が存在すること、および、コンダクションバンドエッジに近い浅いところに存在する界面準位が複雑なふるまいを見せることを明らかにした。また、砒素保護膜により界面準位の発生を抑制することができることを実験的に明らかにした。さらに、低エネルギーFIB(〜10^<13>cm^<-2>程度)を注入したあとアニール処理をすることにより、GaAs結晶中に埋め込まれた二次元電子層を形成することに成功した。しかし、十分な電子濃度が得られなかったので、注入条件やアニール条件のさらなる最適化が今後の課題として残された。
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