一次元写像の合成から得られるカオス系列を適当な方法で2値系列に変換したものを擬似乱数として利用する試みが最近行なわれている。カオスを利用した擬似乱数系列の統計量は、無限長系列の場合、空間平均法により求められるが、擬似乱数系列の暗号通信やスペクトル拡散通信などのディジタル通信システムへの応用を考える場合は、有限長系列の統計量の無限長系列のそれからの揺らぎを評価する必要がある。 本研究では、一次元写像により生成される実数値系列から、閾値関数を用いて2値擬似乱数系列を生成する方法を考え、力学系に対する大偏差原理に基づいて得られた擬似乱数系列から計算される統計量の系列長の有限性に起因する揺らぎを評価した。結果の概要は以下の通りである。 1.閾値cが写像の分割点の場合、統計量の揺らぎを示す指数(これをI^<(c)>とする。)は陽に計算できる。閾値cが一般の値をとる場合は、任意のnに対し、cと2進小数でn桁まで一致するような分割点c_nをとることができることに注目し、次の結果を得た。 1)分割点c_nに対する指数I^<(cn)>は、n→∞のときI^<(c)>に収束する。 2)指数I^<(cn)>は、n+1次元非負行列の固有値問題を解くことにより求められる。上記の結果は、揺らぎを示す指数は少なくとも数値的には計算可能であることを意味する。 2.閾値cが写像の周期点あるいは分割点の場合、生成される擬似乱数系列はマルコフ連鎖あるいは隠れマルコフ連鎖の構造を有することが知られている。本研究では、この逆問題、即ち、任意に与えられたマルコフ連鎖あるいは隠れマルコフ連鎖を実現する一次元写像と閾値の構成法を与えた。
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