本年度は、ランダムアクセス通信方式として最も基本的なスロット付きアロハ方式を取り上げた。従来より解析されているスロット付きアロハ方式のモデルでは、アクセスに失敗したパケットは、成功するまで何度でも再送が許されているものと仮定されていた。しかしながら、ランダムアクセス通信方式を実装するためには、通信システムのデッドロック状態を回避するために再送回数は有限回に制限されるように設計しなければならない。本年度の研究の結果、 ・再送回数を有限回に制限したスロット付きアロハ方式は、再送回数が無制限に許可されている場合と同様に、通信システムがデッドロック状態に陥る可能性があること、 ・しかしながら、パラメータを適切に設定することで、デッドロック状態に陥る可能性を十分に小さくできること、 ・通信システムを安定に維持できるパラメータの選択領域は、再送回数が無制限に許可されている場合と比べ、かなり広範囲であり、選択自由度が広くなること、 ・再送回数が制限されていない場合、スロット付きアロハ方式の安定性はカタストロフィ理論における「カプス・カタストロフィ」によって表現されるが、再送回数を限定した場合であっても、この「カプス・カタストロフィ」によって表現でき、更に、尖点を与えるパラメータは再送回数の制限の有無とは無関係に決定されること が明らかになった。しかしながら、研究課題の後半部分である最適化アルゴリズムの開発に関しては、本年度では十分に達成できなかったので、次年度以降も継続していく必要がある。
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