本研究では、海上における文字多重放送の利用を目的とし、船舶に既存のTV受信装置を使ってTV電波を受信し、その映像信号から文字多重放送のパケットを得る受信装置を試作した。この装置は文字多重放送の1秒間に60個ある、パケット全ての誤りビット数と訂正ビット数を記録できるものである。こうすることで、航走中の船舶における受信状況を時系列で評価できるようにした。この装置を本校の練習船「鳥羽丸」に搭載し、沿岸を航行した時に文字多重放送の受信実験を行った。以下に、研究で得た知見を示す。 1.既存の無指向性アンテナからなるテレビ受信装置で、従来まで不可能とされていた船舶において、文字多重放送の受信が可能であった。 2.船舶において最も受信の障害となるのは、近接した建物からの反射波であることがわかった。そのため、倉庫や周囲の建物の影響が受けやすい港内航行中は、文字放送のパケット受信率が極めて悪かった。 3.船舶の構造物による到来電波の反射や遮断による受信状況の悪化の程度は、受信率を悪くするが、その範囲は反射に較べて狭く、反射によるもののほうがその範囲が広く、受信に大きな影響を及ぼすことがわかった。 4.これらの受信障害を低減させる方法として、空間ダイバーシチ受信は、受信率の向上が期待できる。 5.文字多重放送は放送局から見通し距離内の沿岸で、受信が可能である。 以上のことから、文字多重放送は気象情報等の海上安全情報を、船舶へ伝送できる通信回線であることが明らかになった。今後それらへの適用を考え、受信系の改善や情報伝送のシミュレーション等を行いたい。
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