研究概要 |
動脈硬化は30代以前から進行し、発病前の早期段階での無症候性動脈硬化の診断技術や、個人個人の経時変化の計測が、早期治療や循環器疾患の予防制圧に不可欠となる。特に早期動脈硬化においては,大動脈壁上に数mm程度の脂肪斑・線維斑ができ、次第に血管全体に広がっていく。従って早期診断のためには、症状が早期に現れる腹部大動脈や頚動脈上の数mm以下の局部における弾性的特性に関する非侵襲的計測・評価が必要である。そこで本研究者は、心臓壁・動脈壁上の振幅数十μmの微小振動を1kHzまでの帯域にわたって高精度に非侵襲計測できる方法を提案した.しかし、一般に心臓や動脈壁面上の2点間を伝搬する振動や圧力波は20Hz以下の低周波成分しか含んでいないため、上記の手法では計測能力があっても、高周波数成分が得られないために、動脈硬化症の早期段階に現れる脂肪斑や線維斑に相当する十数mm以下までの空間分解能の向上には限界がある.そこで本研究では,パルス波形を生成して大型の加振器へ加え、脊椎に高周波成分まで含むパルス状の加振を行ない,この外部加振により、胸部で脊椎と接する胸部大動脈を介して、高い周波数成分の微小振動を対象となる動脈(腹部や頚動脈)壁や心臓壁上に伝搬させ、この振動波形を壁上の測定したい微小領域内の2点で超音波を用いて同時に計測した.本研究では、この加振による装置を実際に構成し,既に独自に開発してきた計測方法や多くの信号解析手法と組合せ、最適な加振方法,加振位置,加振周波数,計測位置などを基礎的に検討し,空間分解能の向上に関する評価を行なった上で,従来の動脈硬化診断法では達成できなかった,微小領域における組織性状の非侵襲かつ高精度計測方法として確立した.本研究成果によって、動脈硬化による壁弾性率の局所的変化に関する直接的計測・評価が可能となり、動脈硬化症の早期/進展/縮退の各段階における力学的特性の局部的変化の診断が初めて可能となったと言える。
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