研究概要 |
触覚センサ技術の鍵は,センサ自体が柔軟体であることと整合しむしろそれを利用する検出機構と,弾性体の三次元的な広がりを接触特徴抽出場として利用する構造の実現にあると我々は考えている.本研究では弾性体内部に設けた空洞内部の空気の音響的共鳴を利用して ・無拘束構造‥‥柔軟体内部に柔軟性を損なう要素が存在せず,大変形も許容する柔軟なシステムであること. ・無配線構造‥‥柔軟体内部には配線が存在せず,作製の容易さと頑強さを兼ね備えたシンプルな物理的構造を有すること. という要件を満たしながら弾性体内部の応力テンソルあるいはその固有構造を容易にしかも高い精度で検出する機構(共鳴型テンソルセル)を提案し、その原理の確立と半径3mmのテンソルセルについての実験的検討を行った. まず本検出原理は弾性体内部の球形空洞内部の空気の最低次共鳴周波数が空洞変形によって2つあるいは3つに分離していく性質を利用するが、その周波数と空洞周囲の応力テンソルの固有値を結びつける安定な逆変換理論式を示した.次に上述の2つの条件を満たしながら、この周波数を検出するセンサ構成法を示し、試作したセンサにおいてQ値130の共鳴を確認し、空洞に変形を与えたときの共鳴周波数の振る舞いが,理論的予測と一致する傾向を示すことを確認した.最後に、弾性体内部の各点で本機構によって検出される応力テンソルのランクはそのまま表面での接触広がりの次元に対応しており,密な検出とその後の複雑な計算というプロセスを踏むことなしに表面応力の分布広がり特徴が直接的に検出されることを過去の研究で我々は示しているが,本研究で試作されたセンサにおいて,高い精度でそのようなセンシングが可能となることが確認された. ここで論じる手法は必ずしも触覚に限定されない柔軟体の新しい多自由度変形計測手法であり,柔軟アクチュエータの分布力覚センサや,人体のように柔軟な自然物にフィットしてその形状や運動を計測するセンサシステムなど幅広い発展が期待できるものと考えている.
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