本研究では、コンクリート中の超音波の減衰特性を利用した、コンクリートの非破壊的材料劣化評価法の検討を行った。この材料劣化評価法については、劣化要因を特定した評価法ではなく、その要因が何であれ結果的に引き起こされる劣化状態を評価するための手法の検討を行うこととした。そこで本研究では、種々のコンクリートの材料劣化の状態のうち、特に粗骨材-モルタル間の境界層部分の劣化(ボンドクラック)を対象として評価法の検討を行った。 実験では、境界層部分の劣化を引き起こすものと考えられる劣化要因として先行載荷をとりあげ、これにより劣化した供試体を作製した。そして、これらの供試体に対して超音波測定を行い、得られた受振波の周波数分布を用いて、評価法の検討を行った。 その結果、先行載荷重のレベルに関わらず、受振波の周波数分布において500kHz以上の成分はコンクリートの粘性減衰によりノイズレベルにまで低下していることがわかった。またこれらの周波数分布において、先行載荷重の増加にともなって300〜500kHz付近の成分が減衰していることもわかった。この300〜500kHz付近の周波数成分の減衰は、以下のような理由から、先行載荷により発生したコンクリート中のボンドクラックの存在によるものであると考えられる。すなわち、ボンドクラックの存在は弾性波がコンクリート中を伝播する過程において、その散乱、反射、あるいは回折を引き起こす原因となり、結果的にその弾性波のもつエネルギーが減衰することになる。また弾性波のもつ周波数分布の中でも、このボンドクラックの存在により散乱、反射などを受ける程度は、周波数の高いものほど大きくなるものと考えられる。このように周波数の高いものほど散乱、反射などの影響を受け、その周波数成分が減衰するのは、散乱、反射源のスケールの問題であると考えられる。すなわち、より高い周波数成分(500kHz〜)の減衰(粘性減衰)はコンクリート中の微細な空隙による散乱・反射などが原因であるのと同様に、この微細な空隙よりスケールの大きなボンドクラックの存在は、さらに周波数の低い300〜500kHz付近の周波数減衰を引き起こすためであると考えられる。
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