研究概要 |
これまで約10年にわたり実験や有限要素法による数値解析により,軸方向引張力を受ける梁のせん断耐力について調査し,示方書算定式における軸方向力の項について検討してきた.その結果,当初行った矩形梁の実験結果からはせん断スパン比が3.0より大きな場合には示方書算定式の十分な安全性を確認できたが,それより小さなせん断スパン比(a/d=1.75〜3.0)では(せん断スパン比の項を考慮した場合),軸方向引張応力が30kgf/cm^2を越える場合には,算定式の安全率が落ち込むこと等を確認した.そして,得られた結果の範囲で実験式を提案した.ここで提案した実験式もこのデコンプレッションモーメントの考え方を取り入れ,双曲線関数で表した形のものであった.しかし,その後さらにパラメータを変化させて行った実験において,軸方向鉄筋量の少ない場合や,せん断スパン比の小さな場合における部材のせん断耐力の評価については,さらに検討の必要性を認めた.また,その後の研究において有限要素法による軸方向引張力を受ける部材のせん断破壊性状に関するシミュレーション解析によっても,軸方向引張力を受ける部材のせん断破壊性状は鉄筋比によって変化し、耐荷力の減衰も一定ではないことを確認した. これらの事を背景に本年度は,主として鉄筋量をパラメータとした実験と数値解析を行い,鉄筋量と軸方向引張力の関係を考慮したせん断耐力算定式を提案した(土木学会論文報告集).また,軸方向引張力を受ける部材の破壊メカニズムについても数値解析の面からは,シミュレートすることができた.また,これらの結果を実験により確かめる作業を行うと同時に,この状態(軸力を受ける部材)の疲労特性を調査する準備としての,繰り返し載荷試験を行った.今後は,疲労特性を明らかにすることで,軸方向引張力を受ける部材に関する破壊メカニズムを詳細に解明したい.
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