研究概要 |
高温でβ相の2相分離が起こり偏析型の平衡状態図を持つことが予想されるTi-Mo二元系を選び,5種類のMo組成(Ti-10,20,30,40,50mass%Mo)の合金をアーク溶解によって作製した.これらの合金に広い温度範囲(1023K〜773K)で等温時効を施し,透過型電顕観察によりβ相の2相分離およびα相析出挙動を調べた.得られた結果は以下の通りである. (1)提唱されているTi-Mo二元状態図における偏析温度(968K)以下での等温時効を施した場合,Ti-10〜30Mo合金では,β母相の粒界,亜粒界や転位からの不均一なα相析出が起こった.Ti-40Mo合金においては,873K以上ではα相がβ母相中の格子欠陥より不均一に析出したのに対して,823K以下ではβ相の二相分離によって生成したβ′相をサイトとしてα相が析出し,均一微細なα相析出組織が得られた.Ti-50Mo合金では,長時間時効を行ってもβ相の2相分離やα相析出は観察されなかった.この結果はβ相の2相分離領域が提唱されている平衡状態図より低温側に位置することを示唆する. (2)Ti-10〜30Mo合金において析出したα相はラス状であり,β母相に対してBurgersの関係((1- 10)β//(0001)α,[111]B//[11- 20]α)を満たし,晶癖面は{11- 1}βに近いものであった.一方,Ti-40Mo合金におけるα相は,Potterの方位関係((0- 11)β//(-1101)α,[111]β//[11-20]α)を満たし,{0-31}βを晶癖面とする板状の形態を示した. (3)α相の界面構造を高分解能透過型電顕を用いて観察した結果,α/β界面はすべて半整合であったが,Ti-10Moにおけるラス状α相の界面は,bcc→hcp変態にともなう体積歪を緩和するsessileなミスフィット転位および剪断歪を緩和するglissileな格子転位を含んでいた.一方、Ti-40Moにおける板状α相の界面では,変態歪を緩和する転位の配列は不均一であり,ミスフィット転位も観察されなかった.
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