研究概要 |
まずβ-FeSi_2及びそれに他の遷移元素(Co,Mn,Ni,Cr等)を添加した系についてのアイソマ-シフトの変化について分子軌道計算をおこなったところ、結晶格子ののびがアイソマ-シフトに大きな影響を与えていることを確認した。しかしながら四重極分裂については、Coを添加したβ-FeSi_2のみが大きな値を示し、他の遷移元素を添加した系はそれほど大きな変化はなく、無添加のβ-FeSi_2と大きな差はなかった。これは、分子軌道法やバンド計算では十分説明ができない。なぜなら四重極分裂は鉄原子核位置における電場勾配に比例する。しかしそれが、アイソマ-シフトの解釈で指摘したように結晶格子ののびに依存するものとすれば、Coを添加した系での大きな四重極分裂は説明できない。またCo原子のみの局所的な効果によるものであるという解釈で二つの鉄サイトでの増加を説明することはできない。よって単純に電子だけの寄与では四重極分裂の問題を説明できない。そこで我々は、変形ポテンシャル法を用いてこの問題を解釈してみた。すなわち鉄の原子核位置における電場勾配を単純に電子だけの寄与と考えず、phononとの相互作用で考えようとするわけである。これらの解釈に立脚すれば、大きな四重極分裂は伝導電子に結合している音響phononの数が大きく影響していることがわかった。ところでCoを添加した系は工業上用いられている材料である。それ故高出力熱電素子の開発には、単にバンド計算や分子軌道法といった電子のみの寄与を考えるのではなく結晶格子内での電子とphononとの相互作用などにも注目し、その上での材料設計を考えないといけない。
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