研究概要 |
Ti-Ni合金は、形状記憶合金や超弾性合金として広く用いられている.それらの機能は、マルテンサイト変態を本質的な起源としているが,その機能を発現させるためには,工業的には冷間加工後に形状記憶処理と呼ばれる400℃付近の温度での熱処理を施している。この処理の後に示差走査熱量計(DSC)による変態温度測定を行なうとR相変態に伴う発熱ピークとマルテンサイト変態に伴う発熱ピークのほかに、新たなピークが出現する場合があることがわかった.このピークは0〜30℃程度の温度で出現する.この新たなピークの起源を結晶構造の観点から知るためには,この温度範囲で安定に動作し,正確な温度制御が可能なX線ディフラクトメータ用試料ホルダを作製した.この試料ホルダは冷媒を試料ホルダ周辺に循環させ,試料温度はコンピュータ制御するもので,昇温・降温直後でも試料温度を±1℃の範囲内で制御できるものである.これは従来の液体窒素や液体ヘリウムを用いた冷却ホルダに較べてきわめて簡便で,かつ,それらの従来の試料ホルダにとっては比較的高温にあたり,安定した動作が難しい0℃付近で安定して動作する.このことは,この温度範囲に変態温度がある試料にとっては非常に重要なことである.この冷却試料ホルダを用いて測定した結果,試料の結晶性にまだ問題があるものの,DSC測定における新たなピークは新たな相の出現ではなくマルテンサイト変態温度が二つに分裂してそのピークを形成している可能性が高いことがわかった.その原因については現在考察中であるが熱処理中の析出物の生成に関連するものと考えられる.今回製作した試料冷却ホルダはそのほかに,Ti-Ni合金のR相の格子定数の温度変化の測定,Ti_2(NiCu)_3合金の相変態の観察や構造決定などにも用いており,現在報告の準備中である.
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