いくつかの超イオン導電体では低励起モードと呼ばれるモードが中性子散乱により見出されている。このモードとイオン伝導との関連が指摘されているが、その機構の詳細は解明されていない。そこでイットリア安定化ジルコニアの精密熱容量測定を行い、通常の光学モードよりも低温域での励起が観測されたことから、この物質において低励起モードの存在を初めて示した。また3He/4He希釈冷凍機を用いた熱量計を用いて0.1Kに至る低温までの熱容量測定を行った。その結果、非晶質固体に見られるような低エネルギー励起を見出した。しかしその状態密度は非晶質固体のものとは異なり、低エネルギー側にギャップがあることがわかった。これらの励起の定性的な振舞いは熱容量の温度変化から見て取れるが、定量的に解析するには格子振動の寄与分を正確に見積もることが不可欠である。そこで本研究では特に音速の測定を行ってイットリア安定化ジルコニアのデバイ温度を見積もった。測定は水晶の厚み振動子を用いてパルスエコーオーバーラップ法およびパルススーパーポジション法で行った。測定した音速からデバイ温度を算出し、低エネルギー励起の寄与と低励起モードの寄与を全体の熱容量から明確に分離し、それらを定量的に解析することに成功した。中性子非弾性散乱の実験により、このモードを直接的に観測し、この解析結果が妥当なものであることを示した。さらに動的散乱因子の温度変化から、低励起モードの非調和性に関する知見を得た。
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